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大阪高等裁判所 平成4年(う)929号 判決

本籍

韓国(慶尚南道晋州市玉峰洞六六二番地)

住居

大阪市阿倍野区北畠一丁目三番五号-三〇一号

人夫供給・土木建築請負業

神農明こと 姜渭根

一九五三年一月一五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成四年九月一四日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 阿津地勲 出席

主文

原判決を放棄する。

被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山中孝茂、同西村清治、同桃井弘視、同渡邊俶治連名作成の控訴趣意書に記載のとおり(弁護人は、控訴趣意は量刑不当の主張に尽きる、と釈明した。)であり、これに対する答弁は、検察官阿津地勲作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処した原判決の量刑は、とくに懲役刑につき刑の執行猶予を付さなかった点で重きに失する、というのである。

所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するのに、本件は、人夫供給等の事業を経営していた被告人が、昭和六一年から昭和六三年までの三年間にわたり、実際総所得金額が約二億九四万円ないし約三億三、三一五万円であったのに、総所得金額が一、〇〇〇万円ないし二、一七〇万円である旨の過少申告をし、合計四億八、八〇〇万円余りの所得税を免れた事犯であるところ、ほ脱額が多額であり、ほ脱率も平均して約九七・五パーセントと高率であること、その態様も、事業の収支に関する系統的な記帳をせず、人夫一人当たりの利益や人夫総数からおおよその所得金額を認識しながら、実際の所得金額とは無関係に前年の申告額に若干を増額して申告するいわゆるつまみ申告であること、さらに、昭和六二年八月ころ昭和六一年分の所得について所轄税務署の税務調査を受けたのに、不十分な修正申告をし、その後も虚偽過少申告を続けたことなどに徴すると、その刑責は軽視できないものがあり、最近この種の大口脱税事犯に対する納税者一般の処罰感情が厳しいことなどを併せ考えると、原判決が被告人に有利な諸事情を斟酌しつつ、懲役刑につき実刑に処したことも理解できないではない。

なお、所論は、量刑不当の主張の一事由として、被告人の実際のほ脱額は原判決認定のそれを下回るものであるといい、原判決認定のほ脱額を争っているが、これを直ちに採り得ないことは、検察官が答弁書の一項で逐一反論するとおりであり、被告人が捜査段階及び原審公判を通じて、個々の勘定項目を含めてほ脱額を全く争っていなかったこと、その他記録を調査し、当審事実取調べの結果を加えて検討しても、原判決認定のほ脱額に誤りがあるとは認められない。

しかしながら、記録及び当審における事実取調べの結果によると、犯行の動機ないし背景、態様、犯行後の情状等について、次の事情があることが認められる。

すなわち、被告人は、大学を中退し、土木建築作業員などとして働いていたが、昭和五一年ころから、父親が経営していた人夫供給業、土木請負業を手伝うようになり、昭和五三年ころ父親が破産宣告を受け、その後死亡したことから、父親の事業を引き継ぎ、神明工業の屋号で、大阪市内で自ら人夫供給業を営むようになり、逐次業績を上げ、昭和六〇年には愛知県に人夫宿泊施設を設けて事業を拡大し、昭和六二年には急増する人夫需要に対処するため、大阪市大正区から西成区に事務所を移すとともに、同所にも人夫宿泊施設を設けるなどして売上げを伸ばし、西成地区では大手の業者に成長したものであるところ、被告人は、父親が残した約二億円の負債を銀行借入れによって返済し、さらに、事業用の土地建物の購入等のため銀行から多額の借り入れをしたことから、事業収入の多くを借入れの返済に充てたものである。そして、本件犯行の主な動機は、被告人がこれら借入金の返済を急いだことと事業を更に拡大したいという事業欲によるものであり、これに、法人税と所得税の区別も満足に知らなかった当時の被告人の乏しい税務知識とが相まって、売上げから前記銀行への借入れ返済、不動産の購入、労務者・従業員への支払いなどに充てた残りが所得であるという程度の認識で本件に及んだものであり、他方、購入した事業用不動産を自己名義で登記していることなどからみても、被告人が積極的に所得を隠匿する意思で脱税したような事案ではない。このようにみると、本件が動機の点で特段に悪質なものということはできない。

もっとも、被告人は、もともと納税意識が乏しく、払う税金は少なければ少ないほどよいなどという認識で本件過少申告に及ぶとともに、子供に資産を残してやるなどの考えから、少なくない金員を仮名借名預金するなどしているが、これらの点は、原判決も被告人に有利な事情として指摘するように、強制的に来日させられた祖父や、恵まれない環境の下で事業を始めたものの破産して失敗した父親の影響など、国籍の違いや被告人自身の生活歴と無縁のものではなかったと認められる。

次に、脱税行為の態様は、前記のとおり、実際の所得より過少に申告するという極く単純なものであり、二重帳簿の作成とか証拠資料の改竄とかの積極的な手段を講じたものではない。被告人が系統的な記帳をしていなかった点は、適正な税申告の前提となる実際の所得金額を確定しようとする意思が欠けていたものとして厳しく非難されなければならないが、同時に、被告人が経営していた人夫供給事業の特殊な性質があることも指摘しなければならない。すなわち、売上げについては、企業からの銀行振込等により確実に把握できるものの、支出については、労務者に対する日々の現金による支払いや、日雇い労務者を対象とする特殊な労働関係から生じる各種の経費など、領収書等の証拠書類を受け取ることのできない支出が多くあり、こうした人夫供給事業の性質に由来する特殊な事情も加わって杜撰な経理処理となり、本件のつまみ申告に至ったものと認められる。

さらに、被告人は、さしたる前科がなく、事業経営に励みながら通常の社会生活を過ごしてきたほか、本件の摘発を受けてからは、素直に事実を認めて査察調査にも協力していること、既に本件について修正本税、重加算税、延滞税など合計七億一、七〇〇万円余りと修正地方税一億二、八〇〇万円余りの全額を納付していること、再過なきを期して、事業を法人化するとともに、新たな税理士を迎え、経理の監査と税申告について指導を受ける体制を整備していること、加えて、反省の証しとして原判決後に社会福祉法人等に合計三、〇〇〇万円余りの贖罪寄付をしていることなどの事情がある。

以上のような被告人に有利な事情を併せて考えると、原判決の量刑は、懲役及び罰金の刑期、金額の点は是認することができるが、懲役刑につき執行猶予を付さなかった点は重きに失すると認められる。論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により更に判決することとし、原判決が決定した事実に、その挙示する法条のほか、前記の諸事情を考慮し、刑法二五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 重富純和 裁判官 濱田武律 裁判官 出田孝一)

○ 控訴趣意書

所得税法違反

神農明こと

姜渭根

右被告人に対する頭書被告事件につき、平成四年九月一四日大阪地方裁判所第一二刑事部が言渡した判決に対し、弁護人から申し立てた控訴の理由は左記のとおりである。

平成五年二月二四日

右弁護人弁護士 山中孝茂

同 西村清治

同 桃井弘視

同 渡邊俶次

大阪高等裁判所第二刑事部 御中

原判決が、被告人に対する本件所得税法違反(合計四億八、八四三万六、〇〇〇円の逋脱)について、被告人を懲役一年六月および罰金一億円に処したのは、少なくとも懲役刑に対し刑の執行猶予を付さなかった点において、量刑重きに失し不当であると思料される。よって、控訴の趣旨を左記のとおり開陳し、本件について是非とも懲役刑について刑の執行を猶予されるよう懇願するものである。

一、本件の量刑についてご考慮いただきたい点については、既に原審において弁護人が弁論要旨によって詳論するところであるので、これらの問題点について仔細に再論はしないが、特に控訴審においてご検討いただきたい骨子を述べることにする。

まず、本件については、原判決が指摘するように、逋脱額が三年間にわたり、合計四億八、八〇〇万円余に達する多額なものであり、逋脱率も高いうえ、いわゆるつまみ申告である等の犯情に照らすと、原判決の刑そのものは止むを得ないものとも思料されるが、以下に述べるような犯行の動機、態様、ことに被告人が捜査段階での取調に際し、自らの脱税行為に対する反省のあまり取調官の推計計算に基づく所得額につき何ら反論することなくすべて之を容認し、原審における弁護人も被告人同様の立場に立って公訴事実をすべて容認し、帳簿等資料の整理検討が充分でなかったこと等のため原判決認定の所得金額が計算されたと考えられるが、これをその後仔細に検討してみると、實盾的にはその所得金額はそれより低い金額になるものと考えられる点、あるいは、つまみ申告に至ったことについては顧問税理士の示唆するところであって被告人には検察官主張のような悪意や確定的と思われるほどの犯意があったわけでないなどの点が明確となり、さらには被告人において本件後は事業を法人化してコンピューター処理を導入するなどし会計処理を適正化した等の点も本格化し、加えて西成地区での労務供給事業には被告人が欠かせない立場にあることや、現在被告人は贖罪寄付をするなどして反省侮悟している事情を総合勘案し、この種事件の判決例に照らし考えると、もはや被告人に対しては服役させる必要のないものと考えられる。

以下において、これらの点について付加説明を加えることとする。

二、逋脱税額算定に関する問題点(立証予定)

1、犯則所得及び犯則税額の計算について

原判決は判示第一の事実について、被告人の昭和六一年度の所得金額および逋脱税額を認定するに際し総所得金額が二億九四万七、〇八三円であり之に対する所得税額は一億二、六七五万円であるにも拘わらず、被告人はその所得金額が一、〇〇〇万円でありその所得税額は一六一万六、三〇〇円である旨の申告をし、一億二、五一三万三、九〇〇円を逋脱した旨判示している。

右の所得申告は昭和六二年三月一六日に所轄港税務署においてなされているから、右時点において一応、所得税法違反は成立しているものではあるが、その後昭和六二年一〇月二日被告人は右所得申告について修正申告をなし(検察官証拠目録5)同年度における所得金額は三、四九〇万円であり之に対する所得税額は一、四〇九万四、一〇〇円である旨修正してその時点で差額所得税額一、二四七万七、八〇〇円を納付しているのである。

被告人が本件査察の着手以前の昭和六二年度において、不十分ではあっても右のように一部の修正申告納付を完了しその部分についての国庫の被害を回復している以上、逋脱税額の算定にあたっても右納付済額一、二四七万七、八〇〇円は前記判示の逋脱税額一億二、五一三万三、九〇〇円から実質的には控除して評価されるべきである。

2、神農淑子勘定について

(1)、神農淑子は昭和六〇度末において左記財産合計六二、九四二、七三五円を有していたと認定されている。

現金 一〇、〇〇〇、〇〇〇円

普通預金 六〇、四六〇円

定期預金 五一、五二一、一八一円

出資金 二〇四、〇〇〇円

未収配当金 一、九四四円

積立保険金 一、一五五、一五〇円

これに対し、同人の平成元年一一月二〇日付調書及び被告人の平成元年一二月一九日付調書(証拠目録九〇・一〇二)によれば、神農淑子は昭和五九年五月夫神農恭二の死亡に伴ない、その生命保険金六八、一六五、一〇八円を相続したほか、その相続開始当時、それまで夫から生活費として支給されていたものを貯えて一〇、〇〇〇、〇〇〇円程度の預金を有しており、さらに、昭和五九年五月以降同六〇年一二月までは被告人から生活費名目で毎月五〇万円宛もらっていてその合計額は九、五〇〇、〇〇〇円となるから、右供述に基づく神農淑子の昭和六〇年末における財産は

現金 一〇、〇〇〇、〇〇〇円

生命保険金 六八、一六五、一〇八円

貯蓄分 九、五〇〇、〇〇〇円

の合計八七、六六五、一〇八円となり、前記認定の六二、九四二、七三五円との差額二四、七七二、三七三円は神農淑子の期首財産計上洩れの可能性が強い。

(2)、ところで、「神農淑子勘定」として計上されそれが所得税法第五六条の定めるところにより被告人と生計を一にするものの所得であるが故に経費算入が認められず被告人の所得と認定された合計金五五、六九五、六六二円、(検察官冒頭陳述添付所得計算書番号26、平成四年九月三日付釈明書)

昭和六一年度 一六、〇〇二、四九二円

同 六二年度 一三、〇八七、八〇二円

同 六三年度 二六、六〇五、三六八円

についてみると、神農淑子が被告人から家賃・給与名下に支給をうけていた金額は昭和六一年一月から同六二年五月まで毎月五〇万円で、同年六月以降同六三年一二月まで毎月一〇〇万円(証拠目録九二)であるから、それ以外の賞与を合算しても合計三、三五〇万円にとどまり、神農淑子は被告人から本件課税対象期間中に三、三五〇万円の支給を受けたにすぎないのに、課税対象金額として五五、六九五、六六二円が掲記され、その差額二二、一九五、六六二円が過大に神農淑子勘定名義の被告人の所得と認定されるに至っている。

右差額部分の約二、二〇〇万円の金額が、期首財産の内、被告人の財産に含まれていたものが課税対象年度内に神農淑子勘定に入れられたものか、あるいは神農淑子の期首財産の計上洩れか明確ではないが、右差額部分の金額が前記(1)で述べる神農淑子の期首財産計上洩れと推定される二、四〇〇万円余の金額と略、近接したものであることからすれば、少くとも右二、二〇〇万円程度の金員は、元々期首において神農淑子の財産として存在していたものが課税対象期間内に神農淑子勘定として顯在化し、その結果、被告人の所得と認定される結果となったものということができ、そうであれば被告人の事業所得の内、神農淑子勘定として算入された五五、六九五、六六二円の内、約二、二〇〇万円は神農淑子の所有に属する資産として被告人の所得から控除されるべきものである。

3、昭和六三年末の現金有高計算の誤り

被告人調書(証拠目録一一一、一三五)によれば、昭和六三年一二月末日の被告人の現金の出入状況は次のとおりとされている。

〈省略〉

すなわち、被告人は昭和六三年一二月末、諸経費支払後の現金を七三、二〇〇、〇〇〇円保有しており、それが翌年度において

通常の事業資金 一五、〇〇〇、〇〇〇円

正月用予備費 四〇、〇〇〇、〇〇〇円

本社用年玉 一五、〇〇〇、〇〇〇円

愛知事業所用年玉 三、二〇〇、〇〇〇円

合計 七三、二〇〇、〇〇〇円

に充当されたものとされているのであるが、右の予備費四〇、〇〇〇、〇〇〇円が存在したかどうかは極めて疑わしい。

すなわち、被告人がそれまで正月用予備費として年度末に準備し金庫に保管してきたものは昭和六〇年末は一〇、〇〇〇、〇〇〇円、同六一年末は一〇、〇〇〇、〇〇〇円、同六二年末は一二、〇〇〇、〇〇〇円とされており、昭和六三年度の事業規模は同六二年と略、同程度にすぎないから、同年度にかぎって予備費を前年より二八、〇〇〇、〇〇〇円も過大に準備する必要はないし、まして昭和六四年年初は被告人は家族全員を連れてハワイ旅行に赴き、事務所は空になる状態であるのに、そこに四〇、〇〇〇、〇〇〇円もの大金を放置するなど常識的にもあり得ない事である。

右差額金二八、〇〇〇、〇〇〇円が昭和六四年度にいずれかの金融機関に戻入れされた事実も存しないことに徴すると、それは、昭和六三年一二月末の現払労務賃、出張者の労務賃等諸経費に費消されたものとみることが合理的であろう。

4、労務賃(お年玉)の経費算入年度の誤り

被告人がその雇傭する労務者に対し、年初お年玉と称して若干の現金支払を行ってきたことは事実であり、それが損金処理され容認されていることも記録上明らかである。

すなわち、被告人の各年末の現金勘定には

昭和六〇年一二月三一日 年玉(大阪分) 五、〇〇〇、〇〇〇円

昭和六一年一二月三一日 年玉(大阪分) 五、〇〇〇、〇〇〇円

昭和六二年一二月三一日 年玉(大阪分) 一三、〇〇〇、〇〇〇円

昭和六三年一二月三一日 年玉(大阪分) 一五、〇〇〇、〇〇〇円

と計上され、昭和六〇年一二月三一日に用意された五、〇〇〇、〇〇〇円が翌六一年一月に年玉として支払われているのであるが、昭和六一年一二月末には年玉として五、〇〇〇、〇〇〇円を用意したのに同六二年一月には一三、〇〇〇、〇〇〇円の支払を要して八、〇〇〇、〇〇〇円の不足を生じ、同六二年末には一三、〇〇〇、〇〇〇円を用意したのに実際には一五、〇〇〇、〇〇〇円の支払を要して二、〇〇〇、〇〇〇円の不足を生ずるに至っている。

被告人の労務者に対する「年玉」名下の金員の支払は、親族に対する贈与としての本来的な年玉とはその意味合いを異にし、被傭者である労働者に対し、正月休みという不就労期間の労務対価の穴埋め的な性格を有するものであるから、社員に対する賞与が給与の後払と評価されるのと同様に、前年度の労務の対価が正月の年玉名下に支払われたものとみるべきであり、そうだとすればその支給対象期間はそれぞれ前年度に属し、前年度の経費として損金算入されるべきものである。

そうすると、昭和六三年一月に支払われた一三、〇〇〇、〇〇〇円は同六二年分の、又同六四年一月に支払われた一五、〇〇〇、〇〇〇円は同六三年の経費となるから、昭和六二年及び六三年末に用意された年玉との差額計一〇、〇〇〇、〇〇〇円が経費の算入洩れとして、被告人の所得から控除されねばならない。

5、以上は被告人の所得額及び逋脱税額算定上のごく一部の問題点の指摘であり、証拠資料を検討すれば、他に多くの問題点があり、それらを概算すれば逋脱税額は四億円に満たないのである。不動産の売却に伴う譲渡所得や株式譲渡益など帳簿書類等による所得額の確定が容易な案件と異なり、被告人の特殊な業態からすれば、被告人としては主張することのできる問題点が多々存したにも拘わらず、捜査当局の取調べに対して弁解がましいことを一切言わず、取調官から言われるままに全面的に事実を認め、認定された所得額を容認して修正本税、重加算税、地方税等を全額納付し公判においても公訴事実を争わずひたすら恭順の意を表わしてきたことが却って裏目にでたのではないかと考えざるを得ない。

しかしながら、被告人としては逋脱税額を争い、いたずらに審理の延引を図ることは本意ではないので、原審認定の逋脱税額には問題があり、実質的にはその額がより低く評価されるべきものであることを情状としてご考慮賜わりたいのである。

三、原判決で指摘されたつまみ申告について(立証予定)

原判決は、量刑理由の一つとして本件申告をとらえ、「被告人の申告態様は、実際の所得金額とは無関係に、その前年の申告額に若干増額して申告したという典型的なつまみ申告であり、法を無視した大胆な犯行というほかない。更に、被告人は、昭和六二年八月頃に所轄港税務署の税務調査を受けながら、不十分な修正申告しかしなかった上に、その後も正しく申告することなく、右同様の虚偽過少申告を続けていた点も量刑上無視できない」と指摘している。

しかし、本件申告がつまみ申告となった理由については、被告人は原審において、当時の顧問税理士の立場を考慮し、若干触れたのみで、申告に至る詳細を供述しなかったが、その経緯は次の通りである。

1、被告人の人夫供給業の税務申告は、従来、朝鮮人商工会に委託していたが、昭和五八年、被告人の父が死亡し、同事業を被告人とその実母神農淑子が経営するに至ってからは、経理等を総括する実母の意思で、一井武税理士を顧問に迎えて、その指導のもとに税務申告をするようになったが、同六一年、同税理士が他の脱税事件に関与したとして、三年間の資格停止処分を受け、被告人の事業について税務指導をすることが出来なくなった。そのため、同税理士の紹介で同年一一月から、北居税理士が被告人の顧問税理士となり、税務申告を指導することとなった。同税理士の経歴は、以前、大阪国税局に勤務し、東住吉税務署々長を最後に退職したものであった。

被告人は、同税理士の華やかなる経歴を考え、同税理士を全面的に信頼し、その指導に従うこととなった。

2、昭和六一年分の所得税の確定申告について

被告人は、昭和六二年三月、既に顧問料を支払って顧問税理士となっていた北居税理士事務所へ、六一年分の確定申告について相談に行った。被告人は売上等の資料を提出し、前年までは三〇〇万円単位の所得で申告している旨説明したところ、同税理士は右資料を検討し、「これでは一〇〇万円単位の所得申告ではまずい。今年は一、〇〇〇万円位で申告せい」と言って、昭和六一年分の所得税の確定申告書を作成したが、作成税理士欄に署名押印することなく、それを被告人が所属している納税団体、大阪港納税経友会を通じて所轄税務署へ提出するよう指示したので、被告人はその指示に従って六一年分の確定申告をした。

3、昭和六一年分の所得に関する修正申告について

被告人は、昭和六二年三月頃から、既に申告している同六一年分の所得税申告について港税務署から調査を受けることとなった。同調査については、同六一年分の確定申告を指導してくれた北居税理士が立会い、税務署員の質問に答えて交渉してくれ、同六二年八月に、三、四九〇万円の修正申告をすることで調査を終了させ、早急に同金額を納付するよう指示したので、被告人はその指示に従って同金額を納付した。

4、昭和六二年分の所得税の確定申告について

被告人は昭和六三年三月、北居税理士事務所へ、同六二年分の確定申告について相談に行った。同税理士は被告人が作ってきた六二年分の試算表等を検討した上で、「昨年は一、〇〇〇万円で申告したから、今年は二、〇〇〇万円の所得で申告しとけ」と指示したが、被告人は六一年分について既に三、四九〇万円の修正申告をしているので、正確な申告をしたい旨要求したが、同税理士は、「昨年の港税務署の調査の時も税務署と話をつけたのだから、大丈夫である。心配することはない」と言って、六二年分の確定申告書を作成し、作成税理士欄に記名押印して、これを港納税経友会を通じて提出するよう指示したので、被告人はこれに従って六二年分の確定申告をした。

5、被告人は、同六三年一〇月頃から、被告人と同業の人夫供給業者らが次々と大阪国税局による査察を受けたという情報を得た。更に、翌平成元年一月頃、被告人は親しくしている同業者から、「早く修正申告をしておいた方が良い」と忠告を受けた。被告人は、被告人自身も大阪国税局等の査察を受けるおそれがあるのではないかと危惧したため、その頃、何度も北居税理士を訪ねて、右情報等を説明し、国税局の査察等を受ける前に早く昭和六二年分の所得税に関する修正申告をしてくれるよう執拗に要求したが、同税理士は、「わしのことが信用出来ないのなら、他の税理士のところへ行け。わしがついているから大丈夫である。心配するな」との一点張りで、被告人の要求を一切聞き入れてくれなかった。

6、昭和六三年分の所得税の確定申告について

平成元年三月頃、被告人は北居税理士事務所で、昭和六三年分の確定申告については、周囲の同業者の状況もあるので、今までのような大雑把な申告ではいつ税務調査があるか判らず、不安で仕事も手につかない状況であるから、今度(昭和六三年分)こそは正確な所得を試算し、正確な確定申告をしたいので、その趣旨に沿った確定申告書を作って欲しいと強く依頼し、被告人が昭和六二年分として作成していた試算表を見せた。同表によると昭和六二年の売上げは二二億五、二六一万八、五〇一円で利益が五、八三五万三、〇一九円であったので、昭和六三年は、少なくともこれ以上の申告をすべきであると主張したが、同税理士は、「そんなことをしたら、莫大な金を納めなければいかんぞ。それでは、今年は名古屋の売上等も考えて二、一七〇万円で申告する」と言って、同六三年分の確定申告書を作成し、作成税理士欄に記名押印し、港納税経友会を通じて港税務署へ提出するよう指示したので、やむを得ず被告人はその指示に従った。ところが、被告人の右確定申告書を見た港納税経友会々長の小林正夫から、「こんな申告を出したら、必ず国税の調べを受けるぞ」と強い忠告を受けたので、被告人は直ちに北居税理士にその旨報告し、確定申告書を作り直して欲しいと頼んだが、取り合ってもらえなかった。

7、平成元年夏頃から、被告人は大阪国税局から身辺を調査されている気配を感ずるようになり、心配のあまり、安眠も出来ない日が続くようになった。

そこで、被告人は何度も北居税理士を訪ねて事情を説明し、至急、修正申告して欲しいと強固に申し入れたが、同税理士は、「お前は往生際が悪い奴だ。わしにまかせておけば、大丈夫だ」と言って、全く被告人の申し出を受け入れてくれなかった。

同年一一月十七日頃、被告人は同業者の一つに大阪国税局の査察が入ったという情報を得、身辺への調査が近いのではないかとの気配を感じ、居ても立ってもいられない気持ちで、直ちに、北居税理士を訪ね、「このままではいかんので、明日でも修正申告をして欲しい」と喧嘩腰で頼んだが、同税理士は、被告人の目前から大阪国税局に電話を入れて、情報を探ってから、「大丈夫だ」と言って、今度もまた修正申告をさせてくれなかった。

8、結局、同税理士が被告人の再三にわたる正確な税務申告や修正申告の申し出を取り上げなかった結果、同年一一月二〇日、午前八時四〇分、被告人は、大阪国税局の査察を受けることになった。

9、以上の通りで、本件確定申告は被告人の意向を無視した同税理士の指図に基づいて行われたものであって、原判決が指摘するように被告人が法を無視し、行った大胆なつまみ申告ではないので、この点について十分なるご配慮を賜わりたい。

四、本件犯行の動機、態様について。

1、犯行の動機等についてご考慮いただきたい点は、まず、被告人の父が事業の失敗から約二億円の負債をかかえて破産宣告を受け、その後死亡したことから、被告人においてその負債のすべてを銀行借入れにより返済し破産廃止にこぎつけたものの、その後もその返済を続けざるを得ない状態となったため、被告人自身はその事業による利益のほとんどを返済に充ててきたが、現在でも銀行借入残高が二六億円余りにも達するという状態にあって、本件脱税の動機がこれら借入金の返済を急いだことがその遠因になっていて、それなりに理解できる事情にあること。そのうえ、被告人は脱税の利益をもって国債や株式あるいは美術品の購入に充てたりする等、自らの私利私欲を計るような財産隠匿行為に出たものでなく、その利益のすべてを労務者の施設の充實に投下していたものであること。要するところ、被告人としては借入元金や金利あるいは不動産購入費を相殺した残りが所得になるものぐらいに考えて本件の税申告に対処していたものであり、言葉を代えればそれが脱税になるという確定的な悪意があったものでないこと等の事実関係を直視し、有利に斟酌していただきたい。

加えて、被告人自身は別に法人を持ち、しかも本件事業は法人態勢で営業していて、法人税の方が税金が安くて済むことを知りながら、本件の労務雇用事業が、後にもふれるように税法上の事業実態を確定しがたいことにあったことや、税知識が不勉強であったことから、不用意にも個人事業として所得申告をするなど、税知識の乏しさが本件の逋脱額を高額になさしめたといっても過言でなく、反面これをみれば格別の悪意が存在しなかったことの証であるとも考えられるのである。

2、次に本件の申告がつまみ申告である点について論及するに、それは被告人の行う業務に内在する特殊事情に由来するものであることを充分検討されるべきである。すなわち、被告人の行う労務雇用業務は、毎日早朝五時より西成あいりん地区内でたむろする何万人もの労働者に対し、労働条件につき個別接衝を行い、採用した労務者を建設現場に派遣するという特殊な業務であって、その労務者の確保については、業種別にしたがい、短時間のうちに労働者と面接して労働条件の合意を得なければならないものである。そのような状況にあることから、ちょっとした言葉の行き違いでもしばしばいさかいの原因となり、暴動も起こりかねない事態に発展し、時には釜共斗の労働者に謝罪を迫られたり、多数の労働者に取り囲まれ空きびんを投げつけられたり、バスをいためつけられる等の行動に出られることもある。そのため、その謝罪と解決に予期しない金員を支出したり、また、これらのトラブルの発生を防止するためや、場所取りを競争する業者に暴力団が介在するなどのことから、警備費名目で年間三、〇〇〇万円を超す出費が余儀なくされるということ等がこの事業の実態である。そのうえ労務者への給与が日々現金で支払われることから、源泉所得税の控除が困難となり、支払者である被告人において年間四、〇〇〇万円にものぼる源泉所得税を負担することにもなるだけでなく、労務者は特に団体の威勢を借りて賃金の値上げ、寮費の値下げなどの生活改善にかかわるもろもろの要求をしてくることから、仮にそれが理不尽であると思っても、その要求を呑まざるを得ないことになるのが通常の業務実態でもある。

このような労働者に対する紛争解決金や警備費、あるいは源泉徴収税等の支出は、いずれもいちいち領収書が得られず、経費として税法処理の証明のできない現状にある。加えて、被告人の経営自体の中にも、これと同様な多数の負担を余儀なくされる支出が伴う特殊事情が存在するのである。結局これらの諸事情が原因となり、本件の税の申告について、いわゆる丼勘定的なもの、すなわちつまみ申告にならざるを得なかったものである。これらの業務の特殊事情を充分ご賢察いただき、量刑のうえで有利にご考慮されるよう希求するものである。なお、この点に関連して被告人が所轄港税務署の調査を受けた後も、このような丼勘定によって申告を続けていたことは決して好ましいことではないが、それは前にも述べたように、いずれも担当税理士の示唆に従ったものであり、被告人の発意や悪意によるものでないことをご考慮願いたいのである。

五、犯意と方法および金員の使途について。

被告人の本件犯行は、いわゆるつまみ申告であると非難されるところであるが、ただその手段は実際の所得金額には関係なく、経理担当者が毎年度作成する残高資産表を見て、被告人自身の長年の経理感覚に基づいて丼勘定をしたうえ、過小に申告したという極めて単純なものである。すなわち、その収入は大手建設会社やその下請企業に限定され、その売上げのほとんどは銀行振込みにより把握されるところであるが、他方支出に関しては、さきにも述べたように、領収書等の証拠書類を受取ることが困難である業態であったため、止むなく右のような申告処理に至ったものである。一見すると許せない申告であるとも思われるが、一方見方を変えると、通常の脱税事犯にみられるような架空の伝票や帳簿記載を作り出して架空経費を捻出する等の不正手段をとったものでなく、かえって右のような申告自体においては、本来仔細に検討を加えれば、寮設備の減価償却や労務者に対する夏、暮の手当などの臨時出費あるいは貸倒れや持ち逃げ等の損金処理、借入金の利子処理など本来当然経費として正当に損金扱いできるものについても充分の検討評価を加えていないことになり、むしろ被告人に不利益ともなりかねないものであって、言葉を代えれば悪意のない経理処理であったと評価してよいことにもなる。

それに加えて、被告人は、脱税金員の大半は労務者の寮の設備資金に投入する一方、その取得した不動産についてはすべて本人名義にする等していて、その取得資金の出所を追及されることを隠匿するような手段も全く構じていないのである。要は、被告人自身の考えでは事業用資産への資金投入は利益ではなく、また、その返済資金も利益にあたらないなど軽く考えて申告していたものであって、当時の被告人としては、本件調査の結果、このような高額の、しかも高い逋脱率の脱税をしているとは少しも考え及ばなかったというのが事件の実相である。なお、所得に関連し一部仮名預金の存在したことは否定しないが、それは本人の発意によるものでなく、同胞民族の財産を守ろうとする朝銀の工作によるものであることの事実関係を直視していただき、正当に評価判断をされるよう願うものである。

六、被告人の事業継続は社会的にも必要不可欠であることについて(証人により立証予定である)。

被告人は、昭和五四年に人材派遣業をはじめて今日まで、日夜もたがわず艱苦精励して、従業員七二名をかかえる事業家に成長し、その間元来定住性をもたない西成地区等の労働者らに対し、名古屋寮を合わせると数百名を収容できるような業界一の優良な設備をもった宿泊施設を完備して労働者の生活の安定を計り、また、元来搾取が通弊となっていたこの種業界の改善に力を尽くし、日頃労務者は顧客であり神様であるとの信念をもって事業経営に当たり、積極的に労務者の中から人材登用をするなど、この種労務雇用業界の安定と労務者の待遇改善に大きく寄与してきたものである。もし被告人が服役することになれば、被告人の事業は潰滅し、家族や従業員が路頭に迷う結果となることは別にしても、この種業界の悪弊を断ち近代化された福祉的な事業としての供給業者が消えることになり、地区労務者の好ましい就労関係や労働環境が阻害される結果となること明らかであって、ひいて西成地区における社会的秩序の安定や公益も大きな損失を被ることとなる。現にいわゆるバブル経済崩壊後は西成あいりん地区においてもあぶれ労働者が急増し、適正な雇用関係を確立する必要に迫られている現状にあることを考えると尚更である。

七、被告人の反省侮悟と再犯の可能性について。

被告人は、現在自己の非を認め、その刑責の重大さを深く侮悟反省し、既に本件による重加算税等の制裁税や修正地方税を含め合計八億四、六二三万五、三八〇円を支払い、その後の各年度における確定申告についてはいずれも適正に申告し、その所得税(平成元年 九、九九一万円余、平成二年 七、六五六万円余)はいずれも納付済みである。そして、今後の経理の明確化を計るべく、新たに倉中、吉田の両税理士を迎え、経理内容のチェックと申告について厳格な指導を受けることにしている。また、宿泊寮の適正な管理運営のため新たな会社を設立(有限会社アントデリバリー)する一方、名古屋営業所の事業も独立させて新たな会社組織(ライトコンストラクタ株式会社)とし、同時に被告人の個人営業も神明株式会社において事業経営する等して、すべての事業を法人に切り替えたうえ、経理には有能な経理士や社員を配置し、すべてをコンピューター化して収支が一〇〇%捕捉できる体制を整えるに至った。そのため今後は正確な所得の把握が可能となり、本件のような不正な申告は二度と起きるようなことは絶無となったといってよい。裁判所におかれては、是非ともこれらの事実を充分ご考察いただき、有利にご判断されるよう願うものである。

八、なお、最後に付言いたし、ご考察願いたいことは、我国の税制は直接税中心主義がとられ、しかも法人税に比べ個人の所得税の負担が高率であることや、巷には申告洩れを含め脱税と思われる事例が多数発生しているにもかかわらず、必ずしも公平に調査摘発されているわけでもなく、ましてや刑事事件として検挙処罰されることは数少ないことであることに照らすと、脱税事犯については、逋脱額に比例したような画一的な処罰ではなく、それぞれの事案に適応した一罰百戒の精神が生かされるべきであると思われる。ことに自由刑については、脱税による制裁税や罰金等により国庫財政の侵害が補完回復され、かつ被告人をして経済制裁により再犯の防止効果が達成できると考えられる時は、少なくとも初犯である被告人に対しては更なる応報としての徴役刑による服役まで求めるべきではなく、教育刑的観点から刑の執行を猶予することが当を得た処罰であると思料されるのである。してみれば、本件事犯の動機、態様や、既に被告人が制裁税を納付し、侮悟反省しているうえ、再犯の可能性のないこと等の事実を総合勘案すると、被告人についてはもはや実刑に処すべき必要はないものと考えられる。この際、この種事件の裁判例をもご参照のうえ、是非とも被告人に対し刑の執行猶予の恩典を賜わりますよう念願するものである。

九、量刑の公平・妥当について。

1、司法権の発動としての刑事処罰に権威と安定性が認められるために最も重要なことの一つは、量刑が公平・妥当であることの必要性であり、これが控訴審の重要な職分であることもまたいうまでもないところである。

そこでこの観点から、この種逋脱事案の量刑に関して、最近の逋脱額がほぼ同程度の同種事案の判決例、その他著名事件判決例の一部をここに引用し、比較・検討する。

弁証第一号符号1(以下弁証番号を省略する)、平成四年四月二七日宣告の東京地裁平成三年特(わ)第一二五三号、いわゆる地産事件判決は、昭和六二年度、六三年度所得の逋脱額合計金三三億九、三七四万円余の事案に対し、懲役四年、罰金五億円の量刑であり、

この判決では、量刑理由の不利益な情状として、その逋脱額が脱税事犯としては類希な巨額で、平均的な国民からは生涯所得をもはるかに超える、思いも及ばない金額であること、国の課税権を侵害し、その祖税収入を害したばかりか、国の納税制度にも好ましくない影響を及ぼしたこと、所得の方法が、いわゆる「株の買い占め投機」で得た利益であり、利益を挙げる方法が社会的非難に値すること、脱税のための手段及び罪責隠蔽のための工作が看過しえないこと、逋脱動機が訪れた金儲けの機会を逃さず、機に乗じて財を稼ごうとする金欲のみに出ていることを挙げ、利益な情状として、実業家として長年社会に貢献してきた実績があること、地域奉仕、文化事業、外国との親善・文化交流等各種社会奉仕、或は文化的貢献を尽くしていること、逋脱本税・制裁税を完納して、国の租税財政に対する侵害を速やかに回復していること、深い反省に立ち、各法面の福祉機関に合計金一〇億円の贖罪寄付をしていることを挙げ、その量刑を決している。

符号2、昭和六三年六月二七日宣告の神戸地裁昭和六二年(わ)第一〇四一号事件判決は、昭和六一年度所得の逋脱額五億五、三六八万円余の事案に対し、懲役二年、罰金一億円(換刑処分一日一〇〇万円)、三年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この判決では、逋脱率が一〇〇%を超える不利益な情状を認定しながら、逋脱の動機は、被告人が役員をする会社が、いわゆる財テクの有名な会社であり、事案の逋脱所得が株式取引により儲けた所得であるため、会社資金を流用しているのではないかと誤解を受けることを避けるため、或は地域税務署での長者番付一番として公表されることを避けるため、株式売買所得を申告除外したものという、さして有利な情状とは見られない動機を酌量すると共に、脱税のための手段及び、罪責隠蔽工作が無いこと、ほぼ全所得額に匹敵する逋脱本税並びに制裁税を完納して本件を深く反省していること、他に前科・前歴が無く、会社・家庭ではまじめに勤務・生活していること等の情状を汲み、懲役刑の執行が猶予されたものである。

符号3、平成元年三月七日宣告の神戸地裁昭和六三年(わ)第四五一号事件判決は、昭和五九年度~六一年度所得の逋脱額合計金四億〇、九三二万円余の事案に対し、共犯所得主には罰金七、五〇〇万円(換刑処分一日二〇万円)、共犯経理統轄者には懲役一年四月、三年間執行猶予の量刑がなされている。

この判決には量刑理由について特段の判示がないのであるが、判示認定の事実から、主文の量刑が当然妥当するとの判断が窺え、量刑については、平均的事案であることを表明するものと思われる。

符号4、平成元年一二月二五日宣告の東京地裁平成元年特(わ)第一三四二号事件判決は、昭和五九年度~六一年度の逋脱額合計七億一、六五六万円余の事案に対し、懲役三年、罰金一億八、〇〇〇万円(換刑処分一日五〇万円)、四年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この判決では、逋脱率が約九七・〇四%と高率であること、逋脱の手口・方法が計画的かつ巧妙であることからすれば、犯情は悪質で、刑責が重大な故、実刑も考えられるところではあるとしながら、本件の動機が高齢者福祉のためにする財団設立資金の確保のため、株式売買益をこれに充てる目的で、大規模に株式売買を行い、その利益を申告除外して備蓄し、この利益の大半によって目的の福祉財団を設立・運営しており、自己の私益には使っていないこと、同年度の逋脱本税・制裁税を完納していること、就任していた会社役員・福祉財団役員等の職を辞任し、社会的制裁を受けていること、業界に残した功績には多大なものがあること、従前から公益団体には高額の寄付をつづけており、社会的功績が大きいこと等利益な情状の他、年令、健康に優れないことを総合勘案し、懲役刑の執行を猶予する判決がなされている。

符号5、平成二年一一月一四日宣告の大阪地裁平成元年(わ)第二五〇九号事件判決は、昭和六〇年度~六二年度の逋脱額合計四億七、六二三万円余の事案に対し、懲役二年、罰金一億円(換刑処分一日二〇万円)、四年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この判決では、逋脱率が各年度共九七%を超え、動機が店舗改装費用の捻出のための犯行であること等から、実刑に処することも十分に考えられるとしながらも、捜査官には素直に犯行を認めて事実関係を素直に供述し、反省の情を示していること、逋脱本税・制裁税を完納していること、今後は税理士の指導のもとに納税義務に違反しないことを誓約していること、家業には懸命に稼働して来た勤勉・実直な性格で、これまで前科・前歴のないこと、本件以後事案の株式売買取得に対する課税制度の改正により、課税額が大幅に減少する可能性があることを有利な情状として総合考慮し、懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判示している。

符号6、平成二年一〇月八日宣告の名古屋高裁平成二年(う)第四号事件判決では、昭和六一年度、六二年度の逋脱額合計四億五、八六三万円余の事案に対し、懲役一年六月、罰金八、五〇〇万円(換刑処分一日二〇万円)、四年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この事案は、本業(水道施設工事)収入外の株式売買所得を申告除外したもので、逋脱額が巨額で、逋脱率が六一年度九九・九%、六二年度九九・八%といずれも一〇〇%に近いこと、売買取引に借名口座を用いて所得の分散を仮装していること、一般納税義務者に与える影響等から考察すれば、罪責は甚だ重いとしながらも、借名口座分が微少であったこと、素直に事案を認めて捜査に協力し、反省していること、罪証隠蔽工作をしていないこと、逋脱本税並びに制裁税を完納していること、過去には優良納税者として所轄税務署の表彰を受けた者であること、今後の適正な納税を誓約していること、年令・健康状態等を総合勘案すると、原判決の量刑は、懲役・罰金の刑期・金額では、是認すべきであるが、その懲役刑の執行については猶予するのが相当であると判示している。

符号7、平成二年九月二六日宣告の大阪高裁昭和六二年(う)第一一七号事件判決は、昭和五六年度~五八年度の逋脱額、法人税合計三億二、〇〇五万円余及び個人所得税合計四億六、〇六一万円余の事案に対し、懲役一年六月、罰金八、〇〇〇万円(換刑処分一日四〇万円)、三年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この事案は、法人・個人営業のパチンコ店収入のうち、その大部分を申告除外し、逋脱率が法人税では約八一・五%、個人所得税では約八九%と高率であること、現金収入の営業特性を利用して帳簿外現金を作為して申告除外していること、動機が税負担の軽減を図る目的であること等を考慮すると、必ずしも悪質ではないとはいえないことに照らし、犯情は軽視できず、懲役刑の実刑も考えられないではないが、各犯行が意図されたことについては、長兄(共犯者で、別の同種店舗経営者でもある)の主導によるものであったこと、逋脱本税並びに制裁税の総てを完納して反省していること、共犯者の長兄が、一億円の贖罪寄付をしていること、今後はすべての店舗を法人化して経理の明確化を期することで、納税の適正化を誓っていること、本件は、税務査察の段階で、課税所得の確定上、経費調査の行き詰まりがあったことから、査察官が安易な解決方法として、長兄の営業に対する経営管理料という費目を案出して被告人に押し付け、調査の打開を図っていると認められ、査察・告発段階での不適切が考えられること等を総合考慮して、懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当であると判示している。

符号8、平成二年九月七日宣告の神戸地裁平成元年(わ)第五八七号事件判決は、昭和六一年度、六二年度の逋脱合計四億八、六八二万円余の事案に対し、懲役二年六月、罰金一億一、〇〇〇万円(換刑処分一日二〇万円)、四年間懲役刑執行猶予の量刑であり、

この事案は、二カ年度に亘る株式売買益を全く申告除外して逋脱している案件であるが、その逋脱率が各事案について九九%以上で、刑事責任は相当重いとしながら、虚偽申告の他には逋脱を隠蔽するための作為がないこと、逋脱本税並びに制裁税の総てを完納したこと、今後の経理事務を改善していること、本件発覚の後、有価証券取引に対する課税制度が国により見直されていることを被告人に利益に参酌し、懲役刑の執行を猶予する旨判示している。

2、これら判決はいずれも確定しており、量刑の公平・妥当さが検証できるのであるが、それぞれの判決では、事案に相応の量刑因子を把握して総合検討されている。それをここに概括・挙示してみると、(1)逋脱の額、(2)逋脱の率、(3)逋脱の動機、(4)逋脱手段・方法の評価、(5)逋脱隠蔽工作の有無・程度、(6)逋脱本税並びに制裁税完納の有無・程度、(7)被告人の社会貢献度、(8)税務査察・捜査における反省度、(9)贖罪寄付の有無・程度にみられる反省度、(10)今後の納税申告に対する態度・改善度からみた再犯の可能性、(11)被告人の社会人としての勤勉度、(12)社会的制裁の有無・程度、(13)前科・前歴の有無・内容からみた再犯の可能性、(14)その他事案に対する反省心の表れ、(15)税務査察の適切・不適切による告発(訴因事実)内容の正確性等が重要な量刑因子であるといえよう。

そして、右に引用致した各事案判決では、いずれもこれら必要因子に該当する事実関係を適切に把握し、公平・妥当な量刑を図り、懲役刑の執行を猶予すべき案件にはその処断がなされたと認められるのである。

3、そこで、いまこれを被告人の本事案に則して、検討してみると、

(1)の逋脱額については、原判決認定額を敢えて争うものではないが、先に第二項において指摘するように、本件に関する適正な課税所得の把握と割り出しに関する適切な税務調査がなされておれば、被告人の逋脱額は、更に相当な減額認定が得られていたと認められ、ここに引用した各判決認定の逋脱額を遙かに下回る訴因事案となった事案であることを十分ご斟酌賜りたいのである。

(2)の逋脱率については、一般に、この種事案の犯意を推認する量刑因子といわれるのであるが、事案の態様、申告除外する対象・方法により、逋脱率が上下し、必ずしも逋脱者の犯意を正確には反映しないのであって、引用した判決でも、逋脱率が甚だ高率であるにかかわらず、厳刑(実刑)が選ばれていないのは、この理由によるものといわざるを得ない。逋脱者の正当な犯意を評価するには、結論的に逋脱額の多寡によって、判断すべきものであろう。

なお、被告人の本事案については、原判決は、その率が平均して九七・五%の高率であることを指摘し、不利益な情状(量刑因子)としているが、先に述べるようにこの率は、申告時の指導税理士の主導に委ねた結果、当該税理士が企図した申告方法によって出た数字であり、正確には当初から被告人が企図した犯意とはいい難いといわざるを得ないものであるうえ、前述のとおり、正確な税務調査が果され、適正な課税所得・逋脱額の把握がなされておれば、この率は更に低下していたことが確実であることにもご考量賜りたいのである。

(3)の逋脱の動機については、本件は所得を隠匿するという積極的な意思によるものではなく、被告人の事業実態が例年、その所得の大半が、亡父の借財の返済と、労務者の寮設備改善のためにした銀行借財の返済に充てられてきており、その余の所得によって、従業員の支払い等経営経費、家族の生活費等を賄った結果は、手元に若干の剰余が残るのみの経理状況であり、被告人の当時の税務知識によれば、この若干の剰余金を対象に納税申告すればよいものという程度の税務認識であったため、指導を受けていた税理士の主導に迎合することになったことが、本件動機の実態である。

(4)、従って、逋脱の手段、方法についても、原判決が指摘するように、「つまみ申告」の結果を招来することとなる訳であって、原判決は「法を無視した大胆な犯行」と評価・非難をしているが、この手段・方法は、右の税務知識の無知に由来するもので、積極的な所得隠蔽の意思から出た「つまみ」申告では無いことをご斟酌賜わりたい。

(5)、さらに、逋脱隠蔽工作の有無についても、前述しているように、税務知識上から脱税犯意が希薄なため、追及調査を免れるためにする第三者名義を借名した所得隠匿の工作等が何らなされていないことは一件記録でも明らかである。

そうすると、(3)、(4)、(5)の犯情については、これを要するに、被告人の税務知識が無知なため、指導税理士の主導に迎合した結果となったのであって、積極的な所得隠匿のためにする「つまみ申告」の意思によるものではないのであり、被告人の逋脱の手段・方法についての原判決の評価は当を得ていない酷な評価といわざるを得ない。

(6)の逋脱本税並びに制裁税の全額については、税務調査を争うことなく、本件三ケ年分の正規の税額五億〇、一六三万四、一〇〇円に対して、制裁税を含む総額八億四、六二三万五、三八〇円全額を完納し、国家財政に対する侵害については、十分回復されているところである。

(7)の被告人の会社的貢献度については、労働行政上も十分な配慮が要請される土木作業員の雇用問題をかかえる環境にありながら、現実には需給関係が先行して、作業員に対する搾取が有りがちな環境における労働供給事業に携わる被告人の事業姿勢は、事業当初より常に「労務者は顧客であり、顧客は神様である。」とする信念で事業に当たって来ており、労務者の生活環境の改善を基本理念に、数百名を収容できる労務者の宿泊施設を、業界一の優良施設に整え、また搾取が通例になっていたこの種業界の悪弊改善にも力を尽くし、他方発注業者に対しては、常雇い労務者を優遇・確保することで、必要な業界の需給の安定にも寄与し、この種業界の近代化、労務者に対する福祉に貢献して来た、地場の優良労務者供給事業者として、長年に亙り貢献して来た功労者であり、環境としても被告人の事業継続が望まれていることを評価し、ご配慮を賜りたいと思料する。

(8)の税務査察・捜査にみられる反省度については、一件記録から明らかなように、本件事案に対する税務査察・捜査に対しては、全く素直に応じて反省の度を示しており、反って、課税所得の把握に関する税務調査について、主張できる他人勘定を自己の資産勘定に加え、或は主張できる経費勘定についても主張する事なく、所得計算している税務調査にも応諾している態度に終始しており、被告人の反省度には全く非難すべきものはない。

原判決が指摘している「昭和六二年八月の税務調査を契機とする、修正申告も不十分な申告」態度で、反省の度が薄いとされる点については、前述のとおり、税務知識が浅薄であった被告人にとっては、顧問税理士の指導が唯一の頼りであり、この税理士の算定に迎合していたもので、むしろ、当時の税務調査・税務指導が不十分であったと見なければならない節も無くはないのであって、積極的な反抗的意図に出た不正な修正申告で無いことは、後日本件の逋脱税額を含む制裁税の総てを完納している態度に、被告人の十分な反省度がみられることを、ご考察賜りたいのである。

(9)の贖罪寄付に見られる被告人の反省度については、既述のとおり、事業現場における土木作業員の福祉に寄与すべく、三、〇〇〇万円を贖罪寄付している。その額は、従来より地域労務者の労働環境改善のため、多額の銀行融資を受けて寮設備の改善に取り組んできており、その返済にも喘いでいる被告人にとって、更になし得る限度一杯の寄付金額であって、贖罪に寄せる反省度に十分な評価を賜りたいところである。

(10)の今後の納税申告に対する改善度については、既に被告人の事業形態の法人化による経理システムの機械化、経理専門人材の投入、顧問税理士の一新等一連の整備が完了しており、今後は全く正確な納税申告ができる態勢で事業に当たっている(この点については、更に当審で立証を予定している)。

再犯の虞れを全く無くした被告人の努力については、ここに引用した各裁判例同様十分な評価を賜りたいと思料する。

(11)、被告人の社会人としての勤勉度については、弁護人の立証で随所にこれを明らかにし、弁論で総括したように(原審弁論一〇頁、二項)、被告人の生活態度は刻苦勉励の人であるばかりか、しかも事業現場の過激な環境下、真剣に、生命を張って職業を自覚し、世のため人のために役立つべく努めている者である。

(12)、本件により、社会的制裁を受けて来たことについては、平成四年四月九日の原審第三回公判期日における被告人尋問の結果により明らかなように、被告人の子供・家族までが、当時の学校・地域で「村八分」の非難とボイコットを受け、転居のやむなき事態となり、新規の生活を余儀なくされてきたのである。

この被告人の心情には、絶大な社会的制裁として永く心に留められ、再び事件を起こすことなく正業に邁進しようと誓う心に大きな教訓として残されており、この面からも被告人には再犯の虞れは全くない。

(13)、被告人には、勿論本件と道路交通法違反の罰金刑の他には、社会的、人格的に非難に値する前科・前歴はない。

(14)、事案を反省して素直に訴因の逋脱を認め、逋脱税額・制裁税額の総てを直ちに完納し、今後の納税申告については、正確を期するために経理の機構を一新して整備している。この観点からも、本件は再犯の虞れが皆無であり、国の徴税制度に違反したことに対する、この被告人の反省態度の実践には十分な評価を賜りたいと思料する。

(15)、本件に対する税務査察・告発の正確性については、諸帳簿の不備と、対応する被告人の税務経理に関する無知のため、その税務調査・課税所得の把握に困難な面があったことは否めないのではあるが、既述のとおり、より正確な調査と把握がなされておれば、課税所得が訴因事実より遙かに減額されており、本件逋脱額がまた相当額減額認定を受け得ていたことは誤り無く、従って、逋脱本税・制裁税の納付額もまた減額されていたことも疑いないところであるが、被告人はこれらを総て訴因の額による逋脱の事実を認め、徴税にも応じている。この点についても、十分なご斟酌が賜われるものと思料する。

(16)、その他、原審以来、弁護人が明らかにしてきたとおり、被告人の事業環境は、社会的に労使の対立が極めて厳しく、ひとつ間違えば、労務者の暴動に発展しかねない特異な事業環境の下で、被告人は労務者の福祉を優先して事業に当たる信念で、事業現場の先端で活動しており、被告人のこの事業態勢は、長年の現場感覚で培われたものであり、経営上余人をもって替えがたい技量である。

被告人の経営的にも、業界的にも、労務者福祉の上からも、昨今の厳しい経済不況下、この被告人の事業活動が途絶える事なく、存続することは、挙げた三方面のすべての観点に立って望ましいのであり、格別のご考量・ご斟酌を賜りたいと思料するのである。

4、以上の諸情状より検討すると、本件は、事案の規模、態様、犯意の程度、動機、国の財政侵害に対する回復状況、今後の納税申告に関する態勢の整備度、再犯の可能性、被告人の社会的な貢献度、被告人に期待される社会的な必要度、被告人の生活態度、これまで交通違反に対する処罰を受けたのみである前科・前歴の事情等、諸般の量刑因子を総合勘案すれば、引用した右のとおりの懲役刑が執行猶予されている諸裁判例と対比して、有利な諸犯情が多々存するのであり、これを斟酌せず、被告人の懲役刑の執行を猶予しなかった原判決は、甚だ酷に過ぎ、量刑の公平・妥当を失するものであるといわなければならない。

よって、原判決の量刑は甚だ不当であり、破棄を免れないので、これを破棄し、懲役刑については、是非その執行を猶予する判決を求めるため、控訴に及んだ次第である。

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